月曜日, 10月 16, 2006

フルタイムのマンガ家になる計画

大学院のころから具体的にどうやってマンガを描こうかと考えていた。正直言って、どこから始めていいかもわからなかった。

絵の方は練習すればもっとうまくなって早くなるだろうと思っていたが、「何を書けばいいのか?」や「どうやってストーリーを作るのか?」など話の書き方に対しての悩みが多かった。実際意味深い質問ではあるが、これからライターとして食っていこうと考えているものがこれらに答えられないというのは情けない状態である。今まで理科系として通ってきたので文学の講義などは無視してきたのだ。

とにかく色々と読んで考えたあげく、私なりの答えに至ったが今はどうやってこの道を進もうかと考えなければならない。

まず、フルタイムのマンガ家とはどういうものなのか?

「マンガ家」と言っても皆同じではない。ワンオフのプロジェクトごとに雇われて描くものもいれば(例えば小説家がシナリオを用意して出版社がそれをマンガにしたいとか)、同人誌などに自己出版して楽しんでいる人もいる。でも大概「マンガ家」と聞けば週刊誌や月刊誌で連載を持っている人のことを連想する。

そういう雑誌に掲載される連載は日本で一番広く知られているもので、一番多くの読者に行き渡る。200から400ページのマンガ週刊誌や月刊誌は毎週(毎月)それぞれ1万から300万部も売れる。というわけで、人気のある雑誌に掲載される大きな利点は自動的にマンガが宣伝されることである。雑誌を手にした読者は元々読むつもりもなかったマンガでもチラッとみかける可能性が高い。

私はいずれ週刊誌か月刊誌で連載を持ちたいので、今はそれに向けて計画を立て、マンガのスタイルやアイデアを用意し始めている(これについてはまた後で)。

さて、どうやってそういうマンガ家になるのか?多くの人は売れているマンガ家のアシスタントの務めから始める。またある人はマンガ雑誌のマンガ賞を目指して投稿したところから編集者の目につく(ダーウィンの本を描く前はそうするつもりでした)。私は今のところ一冊マンガ本を出版した身ですが、連載をもったことがないのでまだ新人って感じです。なんせ連載を持つというのは大変なことで、本当にいいアイデアを常に頭から湧き出し、読者を寄せ集めて放さないようにする斬新なマンガを描けないといけない。それも一時もミスしないで毎週、毎月素早く描いていく上である。


とにかく私のプランは「もちこみ」をすることだ。それは就職の面接のようなもので(らしい)、編集者に自分のマンガのサンプルをみてもらうことである。大抵もちこみというものは「ここをこうしたらよくなるよ」とアドバイスをもらうことに終わるらしいが、気に入ってもらえれば連載につながることがある。

いったん人気を維持できる連載の作成に成功すれば、ペースが速くても少し楽になるらしい。というのは、連載がうまく行っていればアシスタントを雇ってページ作成を手伝ってもらうことができ、自分はアイデアやストーリーに集中できるようになる。また、人気がある週刊誌などでは一人のマンガ家に対して専用の編集者(「三倍の速度」で描けるように!)が割り当てられるらしい。ものすごく人気があるマンガには担当者が五人以上もいることがあり、編集だけでなく、アイデアやセリフも一緒に考えてくれる。「北斗の拳」の「お前はすでに死んでいる」も編集者の提案らしい。

とりあえず問題はその段階までどうやって辿り着くかで、現在はそれを検討中である。

月曜日, 10月 09, 2006

初めのマイルストーン

進化論のマンガを半分描き終わったところで初めて企画に勢いが付いた感じがした。月日が経つにつれ「半分」が「四分の三」になり、それも「八分の七」と進んでいった… 初校が出来たところで大塚さんと数ヶ月編集の作業に集中した。カバーイラストを作ったり本に使う紙を選んだりしていた上、最後が見えていたので期待満々のエキサイティングな時であった。最終的なファイルを作成する上での技術的な問題を解決した後、大塚さんは印刷所に全頁のデータを送った。

それから一ヶ月も経たないうちに2005年の5月20日に印刷され、日本の書店に届いた。


ウワー!肩から重荷が下りた感じだ!…と、少し休憩することにした。本業の後にマンガを描く代わりに暇が出来、まるで休暇をとった気持ちだった。初めのうちは何をしていいのかわからなくてイライラしたり怒りっぽくなったが、いずれはリラックスできるようになった。Xboxを買ってHalo 2で遊んだり、テレビでレッドソックス(野球)を応援したり、ガンプラをいじったりした。

もちろんアマゾンのランクは毎日調べた(売れ行きの正確なゲージではない上、中毒になるからやるなというアドバイスを無視して)。ダーウィンの本はなかなか好評である。初めのころ、進化論関係の本でアマゾンランクは一位だった(340のうち)。現在では上から20以内を上下しているので、進化論関係の本では売れ行きはいい。生物学や医学の先生がブログで褒めているのを見かけたし、大学の入門科学講義の補足参考書として幾箇所で推薦されている。

また売れ行きは国際的になりつつある。韓国の出版業界から数社、この本を訳して出版したいと連絡が来た。その中から科学の本を専門としている出版社に訳してもらうことにしたので、もうそろそろ韓国版も出版されるころである。

「なんの本だったっけ?」

よくぞ聞いてくれた!この本はダーウィンの進化論を楽しく簡単に解説するマンガである。話はビーグル号の旅で始まり、ダーウィンがどうやって進化の謎の答えにたどり着き、出版するまで苦労したかが描かれている。彼の進化論とそれが持つ意味に話は進み、最後は進化に関係する現代科学の発見などに触れる(遺伝学、現代医学、放射能年代測定、ゲノミクス、免疫学など)。

是非、一冊買ってください

月曜日, 10月 02, 2006

キャリアを変えることの損得

多くのマンガ家は10代後半~20代前半でデビューする。新人マンガ家に必要かもしれない週に数回のメチャクチャな徹夜生活は若い体の方が耐えやすい。家族もちならなおさら生活に制限が生じてくる。

私は典型的ではない。学校での勉学を終え、初めの作品を手がけた時にはすでに27歳だった。たしかにこれより晩く開始したマンガ家はいるが、歳が上の方だと言うことはたしかだ。だからゴッホは27歳で画家になり、ベートーベンの音楽は歳をとればとるほど偉大になっていった話(それも聴力を失いつつのことである)などを自分に言い聞かせて元気付けている。

こういうことからも人には「今までの勉強は無駄ではなかったのか」とたまに聞かれる。

まあ、まずは何事でも昔よりは明白に考えられるようになった。物理学を勉強することによって身に付く一般的な考え方はどんな分野にも応用できるし、実際私のマンガ道における色々な面でも役立っている。また前回でも話したが、マンガを描く上では色々な技術が必要となってくるので、それをなんとか自分で身につけることが出来れば大変助かるのである。

自分で新しいことを覚えるのは科学実験と変わらない。昔の人のやり方を調べ、自分のビジョンを開拓し、それをやりとおすために必要なテクニックを開発しないといけない。ちなみに私は科学実験とマンガに共通な器具を買う局面がいつも楽しみだ(例えば最新コンピューターの購入)。でも最近は最高財務責任者(うちの奥さん)がいいかげん投資の利益を目にしたいとおっしゃっている。ナハハ。

マンガ家は時々「マンガ家になるのならどれくらい教育を受ければいいのでしょうか?」という質問を聞かれるようだ。偉大な石ノ森章太郎先生曰く、「いけるのなら、どんどん上の学校に行きなさい! 同じものを見てもたくさんの目(知識)をもっているほうがより広くみられる……それが『得』なのだ!!」


でも私の場合、博士課程を修了することにはもっと深い価値があったと思う。どんな難しいチャレンジでも最後までやりぬく自信を得ることができたことだけでなく、もし中断していれば、いずれまた物理学の道を辿るべきだったかと迷い始めるだろう。そんな場合、恐らく私は物理の講義でマンガを描いて先生に迷惑をかけている者だけではなく、編集者が締め切りでいらだっている最中に物理の公式を計算している者になっていたかもしれない。ここまでやったことで「選ばざる道」はしっかりと自分で歩まないと決めることができ、今は心置きなくマンガに専念することができるのである。