水曜日, 11月 01, 2006

マンガという商売の現実

さて、マンガ道の方向が大体わかったところで、読者諸君はマンガ家が具体的にどうやって生計をたてているのかと不思議がっているだろう。マンガ家だって人間なのだから食ってかないと死んでしまう。

残念なことにほとんどのマンガ道は成功しない。毎日頑張ってマンガを描いていてもそれが経済的に成り立っているとは限らない。

具体的に説明しよう。マンガ家の収入は大まかに二種類ある。

ひとつは原稿料。これはマンガの売れ行きと出版社による。1ページあたり1万円が普通で、初心者はそれ以下の場合もある。有名マンガ家は1ページあたり5万円以上かせぐ人もいるけどまれである。典型的な1ページあたりの1万円だと月刊誌の毎月34ページや週刊誌の毎週17ページの率で描けば、年収400~900万円という計算になる。忙しい外科医ほど働く人にとってはたいした額ではない。


もうひとつの収入源は印税である。これが成功しているマンガ家とやめていくマンガ家の分かれ目だろう。人気のあるマンガはマンガ本として再出版され、売れ値の1割がマンガ家に行く。一番人気のあるマンガは一冊あたり累計百万部くらい売れる。習慣連載のペースでは毎年四冊分のマンガを描くわけだから、マンガが人気あれば収入は悪くない。

その上、映画やアニメ、パチンコやおもちゃからの印税がある。でもマンガは人気があってもアニメ化されたり商品化されるとは限らない。テレビ局はある程度の視聴率が期待できなければ放映しないし、関連商品だって売れやすくなければ作る意味がない。最終的にはアニメでもおもちゃでも売れなければしょうがない。

実際ほとんどのマンガは商品化されないので、マンガ家の収入は原稿料と本からの印税に限られる。またほとんどのマンガは人気が十分なく、単行本にされないため、マンガ家は400~900万円の年収で終わる。

「死ぬほど頑張っていても、好きなことをやっていけるならそれくらいでもいいじゃないか?」

でもそう簡単ではない。マンガ家にはアシスタントが必要なのだ。アシなしでやっていく人もいるが、週間連載のペースでは四人以上の手助けを借りることはよく見られる。週に17ページ描くだけではなく、ストーリーと説得力があるセリフも用意しないといけない。また編集者にボツを食らうこともあることを考慮すれば、週に17ページのペースだけでは遅れをとってしまう。

安月給やただで働いてくれるアシ(経験のため)を探すことも可能だろうが、いずれは業務時間と仕事の質をしっかり制御できるようにちゃんとした給料を払う覚悟が必要になる。つまり、自分のマンガが人気なければ原稿料を全てアシに使い果たすか、一人で締め切りに間に合わすために徹夜で体をこわすかのどっちかである。という風にほとんどの場合はうまく行かないので、マンガ業界の将来にとっても大変気になることである。

マンガ家であるということは自分のビジネスを持つのと同じである。自分の技術を磨いて作りだした商品をマーケティングしてさらに商品化する。従業員を雇うことはできるが、学会と違ってテニュア(終身在職拳)はない。読者がマンガを好まなければ次の日に失業するかもしれないし、一回成功したからといって一生人気が保障されるとも限らない。人気があったマンガ家が次のヒットを得られず、一発屋で終わった例も少なくない。

とてもきつい仕事なのでよほどストーリーを考えてマンガを描くのが大好きでなければやっていけない。私はマンガが大好きだし描くのも楽しいが、やはり経済的に成り立たなければ困る。だから中間的な目標は初めのヒット作を生むことである。